【前編】美容のコト、カラダのコト 日本温活協会代表理事・岩本麻奈先生と考える、現代女性のこれから
年齢を重ねるにつれて体に変化が訪れ、ひとごとではないと感じている方も多いはず。今回は「特別編」として、皮膚科専門医/日本温活協会代表理事・岩本麻奈先生にインタビュー。美容、睡眠、温活などを専門とする岩本先生とともに、美容のコト、カラダのコトを考えていきます。
どんなサプリや美容液より「質のよい睡眠」
ー岩本先生がもっとも大事だと語るのが「睡眠」。大事だとは分かりつつ、仕事や家事などの忙しさから、ついつい後回しにしてしまう人も多いですよね。
そうですね。私の『睡眠美容のすすめ』という本(西村書店)にも書いていますが、OECD(経済協力開発機構:38の加盟国ほぼ先進国とされる)諸国でも、日本人女性の睡眠時間は6時間台で最低レベルです。かつては私も睡眠に無頓着だったことがありました。高度成長期の時代感覚は「眠るのは時間のムダだ」というとんでもないものだったのです。これが本末転倒ということは、今では医学的エビデンスで証明されています。最低睡眠時間の可哀そうな日本女性、ひょっとしたら、いま抱えているモヤモヤした不調の理由も、睡眠不足のせいかもしれません。
目覚めているときにしていることは、ほとんど交感神経を優位に使う行為なのです。いわば、生きていくための活動ですから、エネルギーを消耗します。消耗しっぱなしでは、消尽して死に至るしかありません。生きていくための活動を支えるものは、エネルギーの補給だけでは不十分。休息が必要です。それをつかさどるのが副交感神経、専ら睡眠の間に細胞組織や成長ホルモンの修復などのメンテナンスを担います。
成長ホルモンは就眠当初の深い睡眠(Non Rapid-Eyes Movement Sleeping=ノンレム睡眠)の周期で効率良く得られます。大人にとって細胞や組織の再生・修復をする上で欠かせません。つまり、十分な睡眠が得られなければ、人間の身体は元気を回復しません。どんないい栄養素をいくら摂ろうが、高価な機能性化粧品を使おうが、効果はないのです。水のない砂漠に草や木は生育しません。良質な睡眠はおいしい作物を育てる豊かな土壌なのです。
ー睡眠不足によるデメリットは、具体的にどうあらわれますか?
デメリットしかない睡眠不足。まず、免疫力が低下します。男女ともに性ホルモンの機能が落ちます。過度な飲酒で性ホルモンの機能が低下することは知られていますが、睡眠不足でも短期間で20代の人が50代レベルまで落ちてしまいます。妊活を励む第一は質の良い睡眠ですね。
睡眠不足は不健康な食欲の増進による肥満をまねきますし、大人だけではない学習能力の低下にも結果します。また、不眠の慢性化によっては、認知症やガンになるリスクも上昇します。
入浴とメリハリのある生活で、スムーズな「入眠」を
ー睡眠が大事と理解しつつ、なかなか寝付けない、夜中に何度も起きてしまうなど睡眠に関する悩みを抱える人も多いはず。“質のよい睡眠”をとるには、どんなことを心がければ良いのでしょうか?
大事なことは生活のリズムであり、メリハリです。昼も夜もない都会では交感神経がのさばっている生活習慣となりがち。常にNaturalを意識し、気持ちのリラックスを保ちましょう。
朝起きれば「おはよう」と窓を開けて太陽を浴び、カラダ全体を覚醒させます。昼の間はなるべく外に出て光を浴び、仕事や運動で適度にカラダを動かすようにします。それであっても体内にはセロトニン・ホルモンが作られます。セロトニンは質のよい睡眠に不可欠なメラトニンの素。日中にセロトニンを作っておかないと、良質睡眠獲得のチャンスがそれだけ減っていきます。でも日中の運動は適当でいい、過度の運動負荷は逆に免疫機能を低下させます。
良質睡眠に効果があるのは入浴が一番です。寝る時間の90分前を目安に、湯船に浸かって身体を芯から温めます。若いからと時間を惜しんで、シャワーで済ませるのは勿体無い。日本は温泉天国、豊かな湯治の歴史文化があるのです。最低15〜20分湯船に浸かる習慣をつくりましょう。湯温は40度以下のぬるめのお湯がベストです。重炭酸入浴剤は血管拡張効果からもイチオシです。
ー寝る間の入浴が、なぜ「質の良い睡眠」につながるのでしょうか。
湯船に浸かれば身体深部の体温が上がります。深部体温は風呂から出て寝るまでの間に、次第に下がっていきます。この落差カーヴが緩やかでスムーズな入眠へつながります。そういった意味では、寝る前のお部屋の温度は少し低め(20度前後)に設定しておくのがおすすめです。「寒くて眠れないから」と、ソックスを履いたままおやすみの方もいますが、靴下を脱いで熱を逃した方が入眠もしやすいものです。どうしても冷え性がつらい方には、就寝前の足湯がより効果的ですね。
「CBD」は正しい知識を持って、自分にあった適正量で
ー最近では、入眠をサポートするアイテムとして「CBD」が注目されつつありますが、どのように取り入れるのが良いのでしょうか?
CBDは「正しい知識」を身につけることから始めてください。世間では随分広まってきましたが、まだ間違った知識を持った人や、危険だという認識を持っている人も多いのです。
問題は「CBD(カンナビジオール)」と「THC(テトラヒドロカンナビノール)」の混同にあります。大麻と聞けば「怖い」とか「麻薬」とかのイメージ。これは、CBDではなく、THCの成分なのです。どちらも大麻草由来であり、同じ植物性カンナビノイドの一種なのですが、人体への影響は全く違います。CBDには「キマる成分」や「ハマる依存性」は一切ありません。むろん、ハイにもなりません。
CBDを使用するタイミングも、しっかり確認しておきましょう。不眠の克服ならば夜寝る前に、また、リラックスしたい目的ならば家でゆっくりされる時がお勧めです。CBDは眠くなる可能性がありますので、初めて使用する場合には仕事中や運転中などは避けるべきです。
CBDの適正量や濃度は、人によって大きく異なることも知っておきましょう。初めは「マイクロドーズ」という濃度の低いタイプで少量から試してください。少ない量で効果を感じられるのであれば、それで十分。オイル舌下の場合、効果が感じられなければ、摂取量を「一滴ずつ」増やして調整してください。
それから、常備薬のある方や重度の不眠などに悩む方にお願いします。――CBD に精通した医師のいるクリニックで、しっかりカウンセリングを受けた上で、処方してもらいましょう――。
CBDには魅力がある反面、とてもデリケートな側面があります。正しい知識を持った上でも不安を感じる方や、必要と思われない方にとっては、無理してご使用になる必要はありません。
軽度の不眠であれば、湯船に浸かる時間を増やすなど、ライフスタイルを少し改善するだけで解決できることも多いです。食生活の改善が効く場合も多々あります。手軽かつコスパの良いもので言えば「バナナ」は、私が推奨するスグレモノです。メラトニンの前駆物質であるセロトニンの材料となる成分、またGABAが含まれているので腸内環境も整えます。朝一本食べるといい睡眠に繋がりますよ。
ーCBDについては今後も正しい知識を広めるために専門家による情報発信が大事だと話す岩本先生。YouTubeチャンネル『Dr.MANAの睡眠と美容とお肌について【専門チャンネル】』でもCBDに関する情報を発信してくださっているので、気になる方はぜひチェックしてみて。
後編では「温活」や「フェムテック」をメインに、引き続き“美容のコト、カラダのコト”をお話ししていただきます。
岩本麻奈
MANA IWAMOTO
日本温活協会代表理事、日本コスメティック協会名誉理事長、皮膚科専門医。慶應病院や済生会中央病院などで臨床経験を積んだのち、1997年に渡仏。20年以上をフランスで過ごし、美容皮膚科学、自然医学、抗老化医学などを学ぶ。帰国後は、ナチュラルハーモニークリニック表参道、グランプロクリニック銀座で睡眠美容外来を設立。また、さまざまメディアやYouTubeなどを通して美容情報を発信している。近著は『睡眠美容のすすめ』(西村書店)。
YouTubeチャンネル『Dr.MANAの睡眠と美容とお肌について【専門チャンネル】』
https://www.youtube.com/channel/UC_hmtFzr8xQ2sdmgLUmUXKw