【後編】美容のコト、カラダのコト 日本温活協会代表理事・岩本麻奈先生と考える、現代女性のこれから

年齢を重ねるにつれて体に変化が訪れ、ひとごとではないと感じている方も多いはず。今回は「特別編」として、皮膚科専門医/日本温活協会代表理事・岩本麻奈先生にインタビュー。美容、睡眠、温活などを専門とする岩本先生とともに、美容のコト、カラダのコトを考えていきます。

「温活」はカラダにも美容にもメリットだらけ

ー後編では「温活」と「フェムケア」についてのお話を伺います。まずは先生が協会の代表理事も務められている、温活について。温活=カラダを温める活動ですが、カラダを温めることには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

温活の目的は平熱を上げることです。ふだん低い人の平熱が上がることは(病気でない限り)基礎代謝が活発になっている証です。冷え性改善や免疫力アップの素地ができてきています。カラダの冷えは免疫細胞の機能を低下させますから、冷え性気味の方は注意してください。前編を繰り返しますが、免疫細胞がつくられるのは夜間の睡眠中です。 

温活は美容にとても効果的です。血行が良くなればお肌はプリプリとなり、代謝が良くなればスリムな身体となるのも容易です。最近「腸活」というコトバを耳にしますが、腸活の基礎は温活なのです。体温が低ければ腸のはたらきは鈍ります。ともかく「カラダを温めてから」が始まりです。温活は健康や美容のベースであることを肝に銘じておきましょう。

ー「温活」は年中必要でしょうか?

一年中、意識的な温活に取り組むのがオススメです。例えば夏であっても、外が炎暑であるだけに、屋内ではエアコンをキンキンに効かせて、冷たい飲み物なんかでカラダの中をヒヤヒヤにしていませんか?暑いさなかに急激にカラダを冷やすと、自律神経が損傷してカラダの調節機能がおかしくなり、夏バテで寝込んじゃうこともあります。冷たい水ではなく、常温の水や温かいお茶を飲むのを忘れてはなりません。また、栄養分が炭水化物や糖質に偏ると、身体を冷やす原因になります。注意してください。

暑い日のお風呂も、湯船にしっかり浸かってカラダを温めましょう。ぬる湯でしたら体感的にも問題ありません。

一日の終わりにカラダを内側から温めて、しっかり疲れをとってから、眠りにつきましょう。「質のよい睡眠」と「温活」。健康と美しさの近道です。

 

さまざまな「選択肢」がある世界であって欲しい

ー女性特有のカラダの悩みを解決する、最新のテクノロジーやプロダクトにも注目。最近では「フェムテック」や「フェムケア」といった言葉を、TVやメディア、雑誌などでよく目にするようになりました。

私が暮らしていたフランスでは、そういった文化がずっと以前からありました。東南アジアさえも、むしろ日本より進んでいる感じでしたから、日本も「ようやく」ですね。発展途上の若さを感じて、興味深く眺めています。フェムテックでいえば、吸水ショーツや布ナプキンなどは、市販品も手に入れやすくなって使っている人も増えてきたようです。女性が自分のintimacyに使うもの、自分だけの心地よさがあっていいのです。選択肢が増えることは大歓迎ですね。

ただ医師としては、ちょっと心配な点もあります。月経カップや膣トレグッズなどですが、便利である反面、膣内部に直接触れるものですから、不注意な使い方や管理方法で衛生的問題の発生するリスクが懸念されます。きちんと使い方を理解した上で上手に使ってくださいね。

ー私たちがフェムテックを取り入れる際、衛生面で気を付けることや知っておくべきことはありますか。

デリケートゾーンは皮膚の角層(バリア)が非常に薄く、粘膜も混在しているため、あらゆる刺激に弱い部位といえます。そこには元々常在菌がいて自浄作用があるのですが、洗いすぎると常在菌を殺してしまいます。

特に膣の周りは弱酸性なのでアルカリ性に近い普通の石鹸などで洗うとpHバランスが崩れてしみたりします。デリケートゾーンを洗う際は、専用の低刺激のウォッシュを選ぶと良いでしょう。また、更年期などで乾燥が進んでいる場合は、保湿クリームでのケアもオススメです。

フェムテックやフェムケアは広がっていくことでしょう。しかし、その前に考えなければならないことがあると思うのです。

女性の性に関する問題は(表面的には)解決されてきているように見えますが、深層はどう変わってきているのでしょう? 本質的な課題はなお膨大に積み残されています。テクノロジーの際たるものは医学の進歩だとすれば、(卑近な例ならば)ピルを堂々と飲めると考えられる更年期HRT(ホルモン補充療法)はなぜ進捗しないのか。欧米ではスタンダードな無痛分娩はどうして市民権を得られないのか。医師の退嬰的姿勢なのか、行政の遅疑逡巡なのか。大きな問題は隠しているのか、隠されているのか――今少し考えていきたいのです。

「フェムテック」も「フェムケア」も「ピル」も「無痛分娩」も、一つの選択肢でしかないかもしれません。ちょっとジャンプして言えば、世界中で唯一頑固に日本が固執する「夫婦別姓」も不思議ですよね。「選ぶ自由」がないところに「選ばれない自由」があるはずがない。選ぶ自由と選ばない自由は共存してこそ公正な世界です。さまざまな選択肢を互いに許容する世の中となれば、性の差別も抑圧もなくなっているに違いないのです。

※更年期HRT(ホルモン補充療法)・・・エストロゲンを補うことで更年期障害を改善する治療法。

 

理性と知性を身につけて「今の自分」を最高に美しく

ーさいごに、年齢を重ねるにつれて女性にかけて感じるカラダの変化や悩みについて、岩本先生の見解を伺いたいです。

メディアなどでよく「プレ更年期」とか「プチ更年期」といったコトバが使われます。しかし、こんなコトバを相手にすることはありません。それは江戸時代から続く「同調圧力」の「集団を隠れみのにする無個性」の現れです。医学的な定義だったら、更年期は4555歳くらいに訪れるもの。プレだのプチだの言っていたら20年間、下手したら人生の4分の1以上の期間も更年期になっちゃいます。

調子が悪い方だったら、更年期みたいな症状が出ることもあるかもしれません。でも、それはイコールではありません。そうした症状は、ほぼ子宮の機能が低下していることで現われます。子宮のエイジングについては冷静に考える必要がありますが、更年期であると考える必要はないんです。ご心配なら、婦人科専門医の門を叩いてください。

ーなるほど。あまり先の心配をする必要はないということですか?

そうです。私も20代はこうだった、30代はああだったと思うことはあります。しかし、もう「今」を勝負するしかないんです。そうじゃありませんか?過去を振り返ったり、いまどきの若い世代と比べる必要はありません。目指すは比較対象のナンバーワンではなく、絶対判断のオンリーワンなのです。今の自分が最高に綺麗でいるには、どうしたらいいのか。その時々の持ち駒を使って、演出していく愉しさったらありませんよ。 

長いフランス暮らしの中で感じたことといったら、フランス人のヴィンテージ好き。伝統や文化を大切にする。新しものに飛びつくより、長い間温められて来たものに価値を置きます。若さに固執も迎合もしない、自信があって、どんな時でも凛としている(ように見えます)。本心では色々な想いがあるかもしれませんが、(やせ我慢も含めて)生き様がかっこいいんですよね。

ー日本だと「若くいなきゃ」みたいな概念がある人も多いような気がします。

まあ、そんな人もいますね。でも、若い子と表面上の美しさで張り合ったって、意味ないんじゃないでしょうか。歳をとったのだったら、目に見えない部分の美しさや存在感を確立していかなきゃと思います。人も植物も結局「土壌」が大事。いくら花や葉っぱが美しくても、根が腐っていたらどうしようもありません。


最近、結婚や人生をコスパで語るなど、老後や未来の不安を煽るようなメディア戦略も多く見かけます。そういったものに惑わされることはありません。頭を使って自分で考える人でありたい。そうなるために30・40代女性が身につけておくべきものは、理性と知性だと思います。年齢を重ねていけばユーモア・ウィット・エスプリだって当意即妙、賢くなっていきますよ。自分の弱い部分を認めていけるようになりましょう。人の痛みがわかれば、共感力のある人間になっていけます。若いときからの成長を同世代の友人と共有しましょう。楽しんで生きている女性でいましょうね、皆さん!

 

岩本麻奈
MANA IWAMOTO

日本温活協会代表理事、日本コスメティック協会名誉理事長、皮膚科専門医。慶應病院や済生会中央病院などで臨床経験を積んだのち、1997年に渡仏。20年以上をフランスで過ごし、美容皮膚科学、自然医学、抗老化医学などを学ぶ。帰国後は、ナチュラルハーモニークリニック表参道、グランプロクリニック銀座で睡眠美容外来を設立。また、さまざまメディアやYouTubeなどを通して美容情報を発信している。近著は『睡眠美容のすすめ』(西村書店)。

YouTubeチャンネル『Dr.MANAの睡眠と美容とお肌について【専門チャンネル】』
https://www.youtube.com/channel/UC_hmtFzr8xQ2sdmgLUmUXKw